詩蒐はまだ終わらない

 詩というカタチで、呟き、叫び、疾る (再びコチラに引っ越しました)

一夜だけの逃避行

小さな駅前の小さなロータリー
一晩中営業しているドーナツ店
郊外の街の午前3時は酷く静かだ

ベンチで時間をやり過ごす
指がかじかむほどの冷気
じきに冬がくるのだろう

制服姿をコートに包み
植え込みで人目を避ける
警察官に気づかれぬよう

隣のベンチに二人のホームレス
争い始めたが言語が不明瞭
どうやら使用権があるらしい

私は立ち上がりドーナツ店
ホットコーヒー一つだけ
二階フロアの隅の指定席

ノートを開いて物想う
社会を捨てたはずの二人は
別の社会に組み込まれている

吹きっ晒しのベンチの取り合い
先輩ホームレスには挨拶を
逃げても無駄な縦社会は強固で

バイトをするにも保証人
部屋を借りるにも保証人
身分証明書に身元保証

あらゆるシステムにはばまれて
鬼畜の家から逃げ出せない
一夜の猶予がせいぜいなところ

十七歳の小休息には
学校からの手紙が必要
文書の偽造には慣れた

身体中を雁字搦がんじがらめにされた
窮屈な人生はいつまで続く
何にも属さずに生きられないのか

手足を伸ばし
温かなベッドで
眠りたいだけなのに

おかわり自由のコーヒー三杯
空腹をしのぐ無料の冷水
椅子の背にもたれて少し眠る

窓からロータリーを見下ろせば
二つのベンチに一人ずつ
ホームレスが横たわっていた

夜空の端は薄っすら紫色を刺し
一夜の逃避行は短すぎて
感傷だけで終わってしまう

逃走計画は練られることなく
今夜もノートは白いままで
朝陽が駅前に影を作った