詩蒐はまだ終わらない

 詩というカタチで、呟き、叫び、疾る (再びコチラに引っ越しました)

未分類

あの日喪ったもの

三月がくるたびに 喪失感が身体中を蝕むあの日 故郷にあった無人の家を 津波がさらっていった後 樹々や土が毒に侵され 水も穢されてしまった人々は 誰も死なずに幸いだった そう言うけれど 私にとっては 母が死ぬのはどうでも良いが あの風景がなくなったの…

熱い血

何でもない秋の午後 日当たりの良い花壇にひとり 級友の声は遠くで笑っている土埃をかぶって落ちていた 分厚いガラス瓶の欠けらがひとつ こんなに厚いガラスでも わたしを傷つけうるだろうかわたしはそれを手のひらに滑らせた 皮膚は痛みもなく切れて 鮮明な…

背高泡立草の色彩と影

背高泡立草の群生が原っぱを黄色に染め上げている。原っぱは黄色で充満している。 ここ十年、秋でも初冬でも生温い風が吹いている。生温い風に飛散する黄色は、涼風に吹かれていた頃とは印象がかけ離れている。 それは黄色い悪夢だ。 むせ返る程の悪夢だ。 …

孤独と平穏

今日も失敗したようだどうやら私は 性質がひどく悪いらしい 根性悪であるらしい今年はディベートで 二人泣かせた先週は相談にのって 友人を泣かせた今日は私が泣かなくて クラス中から責められた論理的に語ってみただけ 親切心で言っただけ 卒業用の涙がない…

ビルの上から

少年はビルから落下した高層ビルに囲まれて仰げば 魚眼レンズで見ているようで 空は小さく遠くにあって雑踏の中で立ち止まる私を 肩で突き飛ばしたサラリーマン バッグをぶつけた女子大生 通りすがりに舌打ちひとつ転んで座り込む私を レンズの向こうの知っ…

無防備なこころ

私のこころは無防備で 神経が剥(む)き出しで 空気に触れるだけで痛みます戦争の 悲しい歌を聴かせないで 逃げ惑う話を読ませないで 苦しむ映画を観せないで原爆の 傷ましい写真を見せないで 川に群がる死体を見せないで 焼けただれた人を見せないで私は夜…

思春期集団ヒステリー

それは放課後の空き教室 女の子が十人くらい集まっていた人の顔が天井に浮いている 誰かが言った 別の誰かが同意する 次から次へと 恐怖がひたひたと広がり 一人の叫び声で 空間はショートして みんなが泣き始めた私はシミにしか見えなかったし 泣いている子…

拒絶する白

白が似合うと偶(たま)に言われる それは私も知っている私の白は凄烈(せいれつ)で頑(かたく)な 他の色には染まらない 流し続けた黒い涙も 心を切られ吹き出た血も 何者をも寄せ付けない光を反射するように 薄汚れた両親も 口先だけの偽善者も 私は冷た…

人々は鈍化する

耐え難いものがいっぱいある 感覚過敏っていうらしい でもそれは間違いだ 感覚鈍磨(どんま)がマジョリティーたとえば それは全校集会 みんな制服で整列してさ 俯瞰(ふかん)で見たら ゲシュタルト崩壊で酔う画面いっぱいに 「あ」って打って 時々「お」を…

遺言

私が死んだなら 誰もが私を忘れてほしい 存在していなかったことに 記憶のすべてを消去して私が死んだなら 書いてしまった言葉のすべて 録音された歌に声 写真もすべて消してほしい私が死んだなら 骨まで灰にしてほしい 経も上げず弔いもせず 燃えカスは海に…

愚者のうた

哲学者の名言 詩人のコトバ 先人達の知恵それは無意味 どれも空論で すべて論外だ現実が過酷で 命の保証なく 救助は絶望的戦慄(せんりつ)する日々 明日も見えず 孤立する子供半端な優しさ 好都合な友情 無責任な慰め何もかも不要 すべてが虚構 誰もが愚鈍…

森とパステルと憧憬と

朝露が光る木苺の実 蕗の茎は半透明な緑 田んぼ一面の蓮華草 白詰草で作る髪飾り ナズナのベルが鳴る森で見つけた家には 井戸とランプと木炭 窓を覗き逢ったのは 私より年上の女の子 赤い綺麗な爪をしてスケッチブックの絵 美しい色のパステル 横顔が綺麗な…

しあわせの証

幸せとは何者か わからないから捜しました人はわたしを 羨ましいといいます 悩みがなさそうで 幸せそうといいますわたしは悩みを知りません わたしは幸せも知りません考える 迷う 保留する それしか知らないのです生きのびることに集中して 脳も皮膚も産毛の…

炎に焼かれて

あの子死んだって アパートの部屋で オイル被(かぶ)って火をつけて卒業して三年後の同窓会クラスメイトの男の子 白い肌に大きな黒い瞳(め) いつも静かな微笑みを浮かべ彼の声を聞いたことがない不思議な子だった 十五歳(じゅうご)にして老人のようで …

東京の街はゆらめいている

どっちを向いても 真夏の東京は ゆらゆらとして ピントが合わない沸騰する直前の水 その中にいるみたいだ あるいは分厚い アクリル板の水槽夜になっても 放射熱のドームに 丸ごと覆われていて 星も月もぼやけている今日のお前は 言いたいことを言えたか やっ…

悲しい写真

幸せな一枚を見た鮮やかな色のワンピースの母は モデルのような笑顔で 私はまだ赤ん坊で 母の胸元ではにかみ 全身で喜びを享受している心が止まる一枚も見たその一年後の私の白黒写真 瞳が憂いを帯びていた 大人のように物憂げな 一人だけの接写画像 見えな…

美しいもの

美しいものを見ると 切なくなる夜明け前の浜辺 波打ち際の足跡 一匹のヤドカリ 水平線の淡い光露に濡れる若葉 落ちる滴(しずく)ひとつ 叢(くさむら)の奥の白い花 小鳥の羽根一枚夕暮れの長い影 影絵になった街 色を残した稜線(りょうせん) 無人の細い…

小さな白い骨の夢

苔生(こけむ)した石の上に 小さな骨が乗っている 漂白したように真っ白な 小さな骨が乗っている女の小指の骨だろうか 子供の人差し指だろうか 清潔な骨は苔を映して うっすら翠(みどり)がかっているハンカチに拾い 我が物にしようか いやいやあれはその…

私の小さな獣

ガード下の水溜り 濡れて踏まれて汚れたチラシ 饐(す)えた臭いのホームレス駅横には片腕のない元老兵 駅前では行先不明の募金活動 ゴミ箱から溢れる宣伝物都会は好かない 要らないものが多すぎる きっと私も要らないものだ傷みに耐えた過去は遥か 時に出没…

美しい海で骨になりたい

淡い金色の夕焼けを 見たことがあるか半透明な白銀色(はくぎんいろ)のイカの群れ 森のように広がる珊瑚(さんご) 花びらみたいに舞う魚たち静かな島の波の音 空にはサザンクロスと 煌(きら)めく星がひしめいて 水の中から見る月は揺らめいている美しい…

宵闇に漂う

病院の窓が切り取る情景 夜が来る前の一瞬 灰色がかった蒼い空 高層ビル群のシルエット私の輪郭だけが泳いで 都会の街の中層に漂うビルの間から湧き出る 透明になった熱帯魚たち 色を失い骨も透(す)けて 地上の人波には無関心で静寂の薄い膜に覆われて 街…